2020/05/02
今回は、地域の相談員として、限界集落の独居高齢者の訪問を行っていた経験のある元社会福祉士さんの経験談です。
社会福祉士の専門性は、自身が訪問して安否確認するところではなく、地域の人間関係や資源を見た上で、見守りをしてくれる人をつないで見守りネットワークを構成していく部分にあります。
一人暮らしの高齢者とじかに触れあった彼女が、どのようなことに気づき、どのようなことを大切に感じたか、リアルな経験・気持ちを見てみましょう。
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ご高齢の方にとって最も怖いものは何でしょうか。
病気でしょうか、お金のことでしょうか。相談員をしながら強く感じたのは、孤独の怖さでした。孤独死のことを指しているのではなく、人との関わりが減っていくことの怖さです。誰とも話さず、どこにも行かずにいたら、心身ともに弱っていきます。
足腰が弱って外出しにくくなった、友人が入院したなど、何かのきっかけから人との関わりが減り、誰とも話さず閉じこもるうちに、今まではできていたこと、持っていた力が少しずつ失われていってしまいます。人との関わりが少ない方のSOSは見つけにくく、気付いたときには自宅では暮らせなくなっていた、ということも。もっと早く気付いていればと思っても、時間は戻せません。
できるだけ人と繋がり、心と体を元気に保って孤独にならないようにすることが、高齢期を元気に過ごすために重要なポイントだと思います。
家族の近くに暮らしていれば手は打ちやすそうですが、離れて暮らす子供・孫世代には何ができるでしょうか。
親のことは心配だけど、自分自身の生活もあって、毎週顔を見にいくのは難しいし、どうしようと悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
10年ほど前に地域で相談員をしていたころ、月に1回、山間部のひとり暮らしの高齢者宅を訪問する日がありました。お顔を見て、少しおしゃべりをして、今月もお元気だなと確認すると、次の家へ行きます。
担当した直後は、これはただの「お茶飲み」では? やる必要あるのかな? とさえ思っていましたが、訪問を重ねるうちにこの「お茶飲み」が、おじいちゃん、おばあちゃんの小さな目標になり、元気につながっていたことに気付きました。月に1回、若いのが来るから、来月まで元気でいなきゃと、皆さんは張り切っていてくださったのです。
また、「私のとこには来たから、次はあなたのところじゃない?」と住民同士が電話をしていて、私の訪問自体が住民同士の話の種にもなっていました。
私は住民の皆さんと一緒にお茶を飲んで、「最近どうですか?」とおしゃべりをしてきただけです。皆さんがお元気に過ごされていたこともあり、孤独の解消のために専門的な支援は特にしていません。ご近所さんが回覧板を持ってきたついでにしゃべっていく、友達と長電話する、それに近い支援だったと思います。
しかし、このちょっとの「お茶飲み」が元気につながり、「お茶飲み」ができる気力体力を維持する力にもなっていたのです。
皆様のお父様、お母様はどうお過ごしでしょうか。
お茶飲みはしていそうでしょうか。
お茶飲みする元気はありそうでしょうか。
テレビやラジオだけが話し相手、人間の話し相手も予定もない、特に楽しみがないという方は、例え若い人であっても、心身の力が低下していく可能性があります。外出が減れば体力が落ち、体力が落ちれば気力も落ちていきます。そうすれば、けがや病気をする危険性が高まってしまいます。
しかし、ほんのちょっとのことで、その人の孤独に働きかけることはできます。
先ほどの例でいえば、月に1回若いのが来てしゃべっていく、そのことをネタに、友達に電話をする。このほんのちょっとで、何もなかった予定が少し埋まり、やることができ、話し相手ができました。
ご両親と離れて住んでいて、何ができるか悩んでいるという方。少しの時間、電話でも構いません、「最近どう?」と聞いてみてください。
あなたの声を聞くだけで、ちょっとおしゃべりするだけで、お父様、お母様はぐんと元気が出るはずです。そして、会話をする中から、孤独な毎日をちょっと楽しい毎日に変えるヒントは見つかるはずです。
「今年は梅干しつくるの?」そんな何気ない話から、「久しぶりにやってみるか」と行動につながるかもしれません。
どんな「ほんのちょっと」をプレゼントできるか。
ぜひ考えてみてください。