2020/05/02
前回(上記リンク)の「認知症と上手く付き合っていこう」というお話に引き続き、今回は「認知症を予防する、あるいは、認知症を重症化させないためにはどうすれば良いか」という視点でのお話です。
親御さんに、体も頭もいつまでも元気でいてもらえるように、生活の中で盛り込むと良いちょっとしたポイントを3つ、見ていきましょう。
1.規則正しい生活で、適度な運動をしよう
前回、認知症は脳の病気だということをお伝えしましたが、認知症を引き起こすとされる要因の一つとして、不規則な生活からくる生活習慣病が知られています。規則正しい生活を心掛けて実践していくことで、脳だけではなく、体の機能も元気に保つことが、認知症の予防にも繋がります。
また、近年では「運動は認知症予防に効果がある」と言われています。体を動かすことで脳が活性化され、身体機能の維持にも繋がる、というわけです。一石二鳥ですね。
運動しましょう、という話題になると、「どんなふうに体を動かせばいいの?」「筋力に自信がなくて、運動なんてできない」なんて思って敬遠してしまう親御さんもいるかもしれません。しかし、大丈夫です。必要なのは「適度な」運動で、誰にでもできるちょっとしたことなんです。
例えば、お散歩を習慣にしてもらう。ただ町の中を歩くだけのように思われますが、景色を見て季節を感じたり、鳥の声を聞いたり、花のにおいを感じたりというように、五感が刺激されるのがとっても効果的なんです。
「体が不自由で、外に出るのもなかなか…」という方には、手の指先を使う手芸やものづくり、手指と同時に脳も動かすジグソーパズルもおすすめです。細やかな作業をすることで、脳の働きが活性化され、さらに器用になっちゃうということで、こちらも一石二鳥です。
2.役割・やりがいを持とう
人は誰でも、役割ややりがいがあると、自分の存在意義や気持ちが保たれることがありますよね。親としての役割、職場の役割、地域での役割。年齢を重ねていくと、仕事を退職したり、子どもが独り立ちしたりして、“自分の役割”がなくなってしまう(終えてしまう)こともあります。それによって認知症を発症することも少なくはありません。
そこでポイントとなるのが、“新しい役割・やりがい”を持つこと。例えば、家事の役割分担をしてみるとか、地域の集まりに参加してみるとか。趣味を持って、サークル活動に参加してみるのもいいかもしれません。自分はまだまだやれるんだ、こんなに楽しいことがあるんだ、と感じることは心に潤いも与えます。親御さん自身が、自分から進んで「やろう!」と思えることに取り組んでもらうことで、認知症の予防や重度化を遅らせることができます。
3.人とコミュニケーションをとろう
「人と話す」というととても単純なことのように思われますが、実は、これにはたくさんの効果があるんです。
まず、「人と会うために身なりを整える」。
誰にも会わずに家にいるばっかりだと、「自分しかいないし適当な格好でいいや」と思ってしまいがちに。そうすると、何も考えずにそこにある服を適当に着るだけになってしまいます。
しかし、誰かに会うとなると、「今日はお隣さんとお茶する日だから、綺麗な格好をしなくちゃ」とか、「昔の同級生に会いに隣町まで行くから、誰に見られてもいいようにキチンとした服を着よう」というふうに思考が巡り、ああでもないこうでもないとお洋服の組み合わせを考えたりします。
これだけでも十分に脳を働かせていますよね。こんなふうに人と会うこと、そのために身なりを整えることは、考える力を促進させてくれます。
次に、「会話のやり取りをするために頭の中で情報整理をする」。
当たり前のことにはなりますが、会話をしようとすれば「相手の言ったことを理解」して、それに対する「自分の考えをまとめて発話する」という流れが生まれます。お家でテレビから流れてくる声や映像をただ見聞きしているだけの状況とは全然違って、ここでもしっかりと思考が巡っているんです。
また、自分の思ったこと・考えを、まるっとそのまま口にする人は少ないですよね。相手の顔を見て、声を聞いて、「この人は今こんな風に感じている」というのを知覚したうえで言葉を選んだり、相手を慮ることも必要になります。そうして「考えながら話す」ことで、しっかりと脳を働かせることができます。
そして、「記憶をインプット・アウトプットする」。
例えば、毎週一緒にお茶をする約束をしているお隣さんがいるとします。その人と今週にお話しした内容をしっかりと「覚えておく」。これが「インプット」です。そして次週、「そうそう、先週お話したことなんだけどね、」と話題が上った時に、「ああ、あのことだな」と「思い出す」。こっちが「アウトプット」。
すなわち、脳を働かせて、しっかりと記憶して、会話に織り交ぜることで、思考回路が活発に働いてくれるんです。
こんなふうに、人とコミュニケーションをとること、特に会話をすることには、自分や相手に意識を向けたり、思考を巡らせたりする機会がたくさんあります。それが認知症予防にとても効果があるんです。
また、周囲の方と日々コミュニケーションをとるということは、認知症にとってまた違った重要な役割を持っています。普段近くにいられない家族に代わって、認知症の発症や進行に気付いてもらえるきっかけにもなりますし、認知症を発症してからの支えになってもらえる可能性もあります。
いかがでしたか?
ちょっとしたことが認知症予防に繋がりますし、何より、このポイントを生活の中に取り入れた方が楽しい生活を送れそうですよね。何事もその方にとって好きなこと・プラスの刺激になることを認知症予防に取り入れることが大事です。
もし、認知症を発症した場合、ご本人のご家族だけで抱え込むのではなく、専門スタッフや周りのご近所さんにも頼ってください。認知症の方を支えていくには、周りの多くの人の優しい“見守り”が必要です。無理なく周囲の方と連携して支えていきましょう。